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空海が行く

俳句 猫 庭 のこと

やんぬるかな25 

  やんぬるかな(25)
                工藤泰子

 初空を心に酒をくむ日かな 山頭火  
前回は漂白の俳人・山頭火の「酒」の俳句を味読して終わった。生家は造り酒屋であった彼だが、訳あって、乞食(こつじき)僧となった。酒の句を見ると、なおさらにその境涯が思われる。破調の俳句が多い中、この句は五・七・五で調べも良い。心に酒をくむ・・。腸にじーんと沁みる句である。
鉄鉢の中へも霰         山頭火
雪へ雪ふるしづけきにをる     〃
酔へばいろいろの声が聞こえる冬雨 〃
ひとり雪みる酒のこぼれる     〃

さて今年のお正月も無難なスタート切ることができた。大晦日は帰省した子等と、紅白を見て、鍋を囲み、ワイン、ビール、銘酒?焼酎など・・アルコール三昧となる。実家が造り酒屋だったせいで、お酒にはめっぽう寛大なのだ!山頭火(同県人)のファンだった亡き父も、「酒と俳句」をよくしていた。
父と俳句の関わりなど全く知らなかったが、
「地方の創刊物語に名前があるけど・・・・関係者?」と句友に尋ねられた。「俳人協会編・創刊物語・第一巻・二巻」は「俳句文学館」の連載を纏めたもので、戦前、戦中、戦後の時代背景の中、創刊された俳誌を網羅した企画で、俳壇史でもある。見てみると
「紫」―昭和一六年八月創刊― 関口比良男
参加メンバーの中に「・・酒造家の菊元虹雨・同直也の兄弟・・」の記述を見つけた。二人共、外地に学徒出陣しており、いつ頃のことか良く判らないが、ずいぶんと古い話ではある。
俳句を再開したのは晩年で、私の知るかぎりでは、中国新聞の俳壇で巻頭として、名を売ったようだ。そこから選者をされていた田淵十風子主宰「雷斧」に師事し、句集二冊を上梓するに至る。
句集「寒造」(虹雨・直也)は二人(双子)の還暦に双方の子供達がお祝いとして出版した。
 けふをあすにするまなこ閉ぢ虫を聴く 虹雨
 蔵酒の火入れ花冷つのりけり     直也

句集名の「寒造」とは、寒中(小寒から立春前夜)の一か月間に造る酒のことで、「寒造り新酒」は香味があり上質となる。最近は四季を通して温度管理のできる工場で醸造することが出来るが、昔は、蔵に棲みつく酵母菌と木の樽で醸したのではなかったか?しかも女人禁制で、秘伝、勘、技の世界だった。
 酒造りの工程はよく分からないが、一言で言えば、発酵食品で、《糖化》と《発酵》を同時に行う《並行複発酵》と言う、きわめて巧妙・複雑な仕組みなのである。上手い酒は生きた芸術作品と言えよう。
「寒造Ⅱ」(直也)・「ひこばゑ」(合同句集)より
火と水とかまどの神の鏡餅    直也
酒倉のうしろくらがり虎落笛   〃
酛の香の蔵よりすなる寒日和   〃

酛(もと)とは酒母(しゅぼ)のことで、麹、仕込み水、蒸米をまぜたもの
醪湧く蔵袈裟がけに北斗の柄   〃
醪(もろみ)とは、酒母、麹、蒸米、仕込み水をタンクに投入して発酵させたもの
甑(こしき)蒸し器、 櫂(かい)樽を混ぜる道具
櫂入れし醪の光る寒造     直也
寒造酒庫湯柱をたてつづけ    〃
蔵ぬちは湯気の渦なり寒造    〃
寒灯や真夜もつぶやく醪泡    〃
寒造の日々醪湧き甑噴き     〃

品評会で数々の賞を頂くこともあった酒だが、島から出稼ぎに来ていた杜氏も高齢となり、時代に合わず、とうとう酒蔵を閉めてしまった。
版画にも掘りてのこすや寒造   直也
梟に酒庫の灯一つづつ消ゆる   〃
ひこばえて乾坤ひかりあらたむる 〃
 
(ひこばゑ俳句会に参加するも七十歳にて急逝)
さて父の好きだった酒の肴と言うと、カラスミ、白銀(蒲鉾)、河豚などだが、今は高価で手が出ない。そこで、摑みどころのない海鼠で一句献上と行こう。
海鼠からなまこへ胃の腑ありにけり 柿本多映
酢海鼠やなつかしき世に遊びをり  角川春樹
勾玉のさまに海鼠の切られける   菊元直也
海の詩聴かで海鼠となりにけり  山元志津香
のびちぢみして進化なき海鼠かな 佐藤八重子
世の中をかしこく暮らす海鼠かな  正岡子規
転生とならば海鼠と即答す     伊藤白潮

その海鼠についての記事の一部を俳句エッセイ「こゑとこゑ」(上島清子著)から紹介する。これは俳誌「運河」に連載した「俳句月評」を纏めたもので、主宰の茨木先生の帯文に「理系人間らしいひらめきとねばりがある!」とある。
暮れに清子さんの訃報を聞き驚いた。その才能を惜しむばかりだ。どの記事も理系独特の鋭い観察と、教養に裏付けされ、エッセイというより、研究書の域である。「俳句と度量衡」「ゼロから無限」「サイエンスの目」等、俳句と科学好きにはたまらない。
*私は伊勢志摩の答志島で海鼠漁師に出会ったが、5,6尋の竹竿先に返しの付いた鉤と河豚の腹皮の切れ端を付け、舟底に腹這いになり左手で箱眼鏡、右手で竿を見突きして、海鼠を引き揚げる突きやすの漁法であった。・・・入札の直前なまこ桶に毛布を掛け暗くすると海鼠が水を吸って倍ほどに膨れ、目方が増量して値が上がるといったことが堂々と行われていた。秤量が終わったとたん、海鼠がみるみるうちに海水を吐きだし、縮んでゆくのが面白かった。*「こゑとこゑ」より

地磯より少し離れて海鼠突く    茨木和生
人間の海鼠となりて冬籠る     寺田寅彦

つまみ食う海鼠の雌雄など知らず  木割大雄
 
木割大雄さんは下町のプロデュサーと呼ばれ、さまざまなイベントの仕掛け人で有名である。昨年出された句集「俺」は表紙から驚かされた。スポーツニッポン新聞に13年間連載のタイガース俳句は殊に有名である。
優勝の文字にじませて賀状書く 木割大雄
夏めくやたつた二敗で夜も眠れず  〃
偏見のファン集いぬ梅雨ホテル  〃
ひりひりと夜毎に変わる月の位置 〃  

今は伊丹市の小学校で独自に行われている教科「ことば科」で俳句の特別講師をされている。
浅口市でも、俳句大会では毎年、小・中学校に呼びかけておりちびっ子俳人や詩人が生まれている。冬休みの宿題らしい俳句メモが落ちていたので、こっそり見てみた。素直な言葉の羅列に詩が潜んでいる!添削はご法度、詩心を温めよう・・婆馬鹿か?
さむいときひだまりいるとあたたかい うくも
今年の賀状は「うまく・・」の文字が多かった。
木割さんからは、ちょっと長めの脚の馬で・・
元朝を馬齢重ねて迎えけり   木割大雄
馬齢とは無駄に年を重ねることらしいが、馬が太いと「駄」になる。さては騏驎(麒麟)になるつもりか?馬と鹿を連ねるには疑問が残った。
「酔虎」が「猛虎」になる様に??
            やんぬるかな!
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Posted on 2014/01/19 Sun. 08:48 [edit]

category: やんぬるかな

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